声優が物語と成長した作品:『スロウスタート』がもたらした変化
前編
この記事は11月下旬に執筆しボツにしたものを改稿したものである。
先日,ボツ稿の所在をオタクの友人に話したら「是非読みたい」と言われ,そのまま公開するにはそれに耐えない状態であったため,一部を書き直して4000字強加筆したものをここに記した。
予想以上に長くなってしまったため,「長くて読めねえよ」という読者が居たら後編から読んでくれると良いかと思う。
・はじめに
「スロウスタート」はTVアニメとして2018年1月から3月までTOKYO MX他で放送された作品である。放送終了後の6月にSTARTails☆としての初のライブイベントが,8月にはアニメの集大成となるスペシャルイベントが行われた。
この作品は,高校入学を留年をした主人公・一ノ瀬花名が星尾女子高等学校1年3組のクラスメイト,先生,花名が住むてまりハイツの住人たちと出会い,励まされながら少しずつ成長していく物語となっている。
1話の冒頭での花名と志温のやりとりからのラストの留年告白のギミックは秀逸であるが,4話の過去に留年を経験した大会と打ち解けるエピソードのように,ほぼ毎話が花名にとっての成長を裏付けるものになっている。もちろん全部見てほしいのだが,特に3話と7話と11話は注目して欲しい。(筆者の個人的お気に入りは8話なのだが)
アニメの内容は記事の前提であるが趣旨そのものではないため,非常に残念ではあるが割愛させていただく。
この記事を読む前でも読んだ後でも構わないので,とにかく一度アニメを絶対に見てほしい。
なお,TVアニメ放送中とそれ以前にもアニメ上映会,OP主題歌のリリースイベントやお渡し会など作品の名前を銘打つイベントがあった。
筆者はそちらのイベントには参加しておらず,6月のZirco Tokyoで行われたイベントが初めてだった。
アニメイベントが終わり,スロウスタート(以下,スロスタ)としての動きが終わった後も作品で主演を努めた近藤玲奈さん(一ノ瀬花名役)が登壇するイベントに参加したり,彼女が出演するアニメ作品,ラジオ,ゲームなどをチェックするようになっていた。
活動を追う中で,彼女を知る前(スロスタ出演よりも前の声優活動とそのほか)について筆者なりに調べていくうちに,スロスタが彼女に大きな変化を与えていると考えるようになった。
近藤玲奈さんのファンには,スロスタを通じて彼女を知って好きになっていった人は決して少なくないと感じている。
なにより筆者もその一人である。
本稿では,彼女の声優としてのあり方を変える引き金となった,スロスタについて振り返りつつ,現在に至った経緯を綴る。
前編では,彼女のことをよく知らない読者を想定し,普段のメディアでのやりとりを通して知っていただこうかと思う。
続いて後編でこの記事の本分である,近藤玲奈さんとスロスタとの関わってからどのように変化していったか綴っていく。
筆者のような新参者がこのような記事を執筆するのは非常に差し出がましいことだが,これからファンになる人達に,彼女について知ってほしいという思いがあり起稿に至った。
・近藤玲奈とは
基本的なプロフィールはググれば3秒でわかることなので割愛する。
特記事項として,声優としての活動開始時期は2015年からである。
はてなブログの当該ページにある通り,声優になる前から顔出し系の仕事で芸能活動を行っていた。
れいれいワールド
彼女が独特なトークをすることは既にご存じの読者もいるかと思う。本人やファンの間では「近藤ワールド」または少し砕けた言い方として「れいれいワールド」と呼ばれている。(個人的には後者を好んでいるため,以下後者で記述)
れいれいワールドは彼女なりの自己表現の一つで,普段の活動を追っていくとそのさまは容易に観測することが出来る。
一例を挙げる。AbemaTVで放送されている「声優と夜あそび」(11月26日放送分)にゲストとして近藤玲奈さんがゲストとして出演していた。
放送の中盤(50分45秒頃)で司会の緒方恵美さんが彼女に向け,「来年20歳を迎えるにあたって決めていることはありますか」と問いかけている。
対して彼女は
「今年の目標はホウセンカの実験を成功させるっていう目標だったんですよ。
ホウセンカの実験って小学生の時にやるんですけど,
赤い水にホウセンカを漬けて水の通り道を調べる実験があったじゃないですか。
それで今年は自分という茎を確立させてどういう道を通ったら成長するのか,
道を知りたい年だったので,来年はお花をさかせていきたい」
(ほぼ原文,正確にはリンク参照←記事公開を渋っている間にアクセス不可になってしまった)
筆者なりに要約すると,「今年はアニメやイベントなど多方面で活動した経験を自身で反省し,それを生かしてアニメの役作りやイベントトークをする」というあたりが妥当なところで,そのように解釈をした。
(これに関する解釈は有識者間の中で大きく差が出るかもしれない)
例の他にも生放送・ラジオなどでトークに触れていくと,彼女固有の独特な表現によく巡り会う。例を挙げた以上に難解なれいれいワールドが度々出現するので,イベント等で見かける機会があれば是非注目していただきたい。特に現場に慣れているメンバーが多いなどで,緊張が和らぐとそのような場面を見ることが出来る。
・ワールドが出ないこともある
彼女が声優になる以前,幼少期から独特な考え方を持つことは普段のラジオでのトークからなんとなく窺えていた。ラジオ*1で,リスナーのお便りに対して,彼女はそのような考え方を小学生の頃からし始め,先生やクラスメイトから理解が得られないことに落ち込むエピソードが語られている。
(他にも幼少期に触れているトークはあると思うが)このエピソードから独特な考え方を幼少期から持っていて,それについて周囲に伝えることについて抵抗があり,控えるところがあると筆者は考える。
今の彼女からはそのような一面は見受けられないが,スロスタ以前はあまり自己表現をしていくほうではなかった。
これは,当時の彼女が自分に対して自信が無かったからではないかと考えている。
なお,信頼した相手や環境が相手だとれいれいワールドが出やすいことは同ラジオの過去回で語られており,独特の世界観を表に出すか出さないかについては,心の中で一定の基準を満たした相手かどうかで決まるとも言える。
・彼女の中で葛藤があったのではないか
スロスタとしての動きがある前の彼女は,れいれいワールドは出ていなかった(orかなり出にくかった)というのが筆者の所見である。
正直,この頃の彼女に関しては推測の域を出ない点が多く,筆者自身わからないことも多いので,もし誤っている点があればコメント,実際にあった時に直接話してくれれば幸いであるので,是非勉強させて頂きたい。
ここでは,筆者の仮説を元に話を前に進める。
学生生活を送る上では,周囲に自分の意見が受け入れられないことについて,精神的な成長もあり割り切れるようになった*2と話すが,声優(芸能人)になって自分を見せていくとき,同じように出来るのだろうかと私は感じた。
ましてやオフィスワーカーなどに比べ,顔も知らない相手に自分を売り込みそれらに心の内を明かしていくのは,かなりハードルが高い。
声優として自分見せていく過程で,自分のことを受け入れられるだろうか?という葛藤があったのではないかと感じる。
後編
前編で彼女についていくらか知っていただけたかと思う。後編では近藤玲奈さんとスロウスタートの関わりについて触れながら,彼女がどう変わっていったか綴っていく。
私がイベントに参加していない頃については,過去の記事や過去の資料を見た筆者の所感で話を進めていくこととする。
・4人での活動:STARTails☆の存在
アニメプロジェクトの一つとしてメインキャスト4人で構成されたユニット『STARTails☆』が結成された。
STARTails☆としてはアニメOP曲の担当とそれに伴うMV撮影とCDリリースイベント,0話*3外ロケ(群馬県猿ケ京でのバンジージャンプ,ロッククライミング),ラジオ*4とその公開録音,ユニット単独でのライブイベント*5のように多岐に渡って活動が行われた。
ユニット結成前も含めると活動期間は,アニメ放送前の2017年9月から4人がメインになって行われたニコニコ生放送での特番から,集大成となった2018年8月のスペシャルイベント*6まで約1年間に渡った。
メンバーの一人である伊藤彩沙さんは 過去のインタビューで,キャラクター同士の関係性の変化と演じる4人の関連性について,「そこはほんとに重なるところだな、と思います。それこそ、最初のニコ生*7から観てくれてる方はほんとに「仲良くなったんだね」って言ってくれますし。特に、MV撮影があった次のニコ生からすごく言われるようになった気がします。」と言っている。*8
筆者としても,ユニットのまとまりの強さや仲の良さは毎週のラジオなどで感じていた。
ユニットの力を借りてそれぞれが成長を遂げていったという印象が強かった。
集大成であるスペシャルイベントの挨拶で,
彼女は
作品の雰囲気に日々助けられていてこのメンバーで良かった。
一年間色んなことをやってきて常に幸福で満たされていた現場だった。
花名ちゃんと一緒に弱かった心も強くなって成長できた1年間だった。
応援してくれる皆様のおかげでイベントが開催できて感謝でいっぱいです。
と語った。
花名というキャラクターとの出会いにより彼女にとって弱い部分を強くするきっかけとなっていて,結果作品を通じて声優としての成長を遂げた。
彼女にとって初の主演&メイン出演であること,長いスパンでのユニット活動などを通して彼女の自信に繋がっていった。
まさにキャラクター,そして作品が彼女を成長させたと言える。
・みんなありがと。
キャラクターソングアルバム*9に収録されているトラックのうち,一ノ瀬花名(CV:近藤玲奈)が歌う「みんなありがと。」という曲がある。
これはおたふく風邪を患い1年留年を経験したことで出会えたクラスメイト,先生,てまりハイツの住人の周囲への感謝,友達と一緒に居ることの幸せを伝える曲となっている。
この曲はイベントで過去に3回歌唱されており,それぞれライブイベント昼の部と夜の部とスペシャルイベントで披露されている。
(ご指摘があり,上記に加えne! ne! ne!とStep By Stepリリースイベントを合わせて計5回でした。勉強不足…。)
ライブイベントの方では,歌唱の前にMCがあり彼女はこの曲を歌唱する前に,
昼の部では「アニメのことを思い出しながら聞いて下さい」と言っている。
彼女は花名役で物語の中で出会えた人達に向けて歌った。
そもそも花名の曲なのだから本来の意味はこちらなはずである。
続けて夜の部では「会場にいる皆さんに向けて歌います」と言っている。
この”皆さん”はファンもそうだろうが,キャスト,スタッフなど作品に関わった人達全員に向けられていたと思う。
彼女は「みんなありがと。」を通じてお世話になった人達に感謝を伝えた。
この感謝は,
- 自分を変えてくれた作品に対して感謝
- 変わった自分を受け入れてくれたファンへの感謝
という意味があると筆者は考えている。
そういう意味では,スペシャルイベントでは花名としても近藤玲奈としても存在していたように思う。
涙を堪えながらの歌唱はあらゆるの感謝の気持ちと彼女の優しさが込められていた。
・最後に
ここまで書いたことは彼女から出た言葉,紡ぎを受けて私が感じた個人的解釈,憶測,加えて妄想が入っており,本当のところはどうなのかは分からない。
そもそも他人の心なんて分かるはずがないと書きながら何十回も思った。
筆者が彼女を応援しようと思った日から今日まで,ずっと彼女を見続けてきた。
今思えば,半年振りに参加した6月のライブイベントで,気になっていた声優が目の前であんなことを言っていたら好きにならないはずがないと思った。
過去のイベントに参加していないことに対して,自分の知らない彼女の所在があることが気になることはある。
それでも,あのライブイベントで彼女に出会ったことで,今好きになれている自分があると思っている。
だからむしろあのタイミングに好きになれて良かったのではないかと思う。
筆者から見た彼女の活動を通して,彼女の魅力に気付く人が一人でも増えればいいなと思っている。
*1:2018年11月24日放送「田中ちえ美・近藤玲奈のきょめらじ」ふつおたのコーナー内
*2:同上
*3:TVアニメ『スロウスタート』放送直前特番~はじまりのじゅんび~
*4:『スロウスタート』STARTailsちゃんね!ね!ねる!
*5:STARTails☆スペシャルライブイベント~おいでよ!ライブハウス
*6:2018年8月12日開催 TVアニメ 『スロウスタート』スペシャルイベント~おいでよ! てまりハイツ~
*7:TVアニメ『スロウスタート』~スロウにはじめる生放送~
*8:
ゆっくり近づいて育んだ、4人の絶妙なコンビネーション――STARTails☆座談会 | ダ・ヴィンチニュース
2019/1/23参照。